さてさて、人生相談のお時間ですよー!
まず最初は、「いち」さんからのご相談です。
【コメント登録日】
2013年11月05日 18:32
【相談者】
いちさん
【相談内容】
モラハラ夫から足を洗いたいです。
子どもは6才と4才。
ひとりは重い知的障害があり、10分間、目を離しただけで家じゅうグチャグチャになります。
私は無収入。貯金ナシ。生活費が足らず借金が40万円残っています。
今後の人生の選択肢はふたつ。
1.夫から離れて、子どもと3人で生きていく
2.夫のモラハラのもと、今のままの生活を続ける
それぞれのメリットとデメリットは、
1.のメリット 母子ともにモラハラから解放される。デメリット 生活苦。
2.のメリット 夫の給料で生活できる。離婚で生活の場を変えるための煩雑な手続きや動きをせずにすむ。デメリット 母子ともにモラハラに人生をゆがめられる
モラハラ夫と一緒にいる妻の代表者なパターンですが、私には夫をあわれむ気持ちがあり、モラハラさえなければ、貧しくとも楽しく家族ですごせるのにという夫自体を否定しきれないところが今はまだ残っています。とはいえ、これがあと何年か続いたら愛想が尽きるような気がしますが。
同様の相談と、それへの回答を、最近ずっと見ています。子のためにも離婚すべき、調停と裁判で養育費などを勝ち取るべき、なぜ一緒にいるのか気が知れない、収入のめどをつけてから離婚しろ、夫と話し合うべき、etc。
別れて自由を勝ち取ろう!と前向きになったのは一緒で、読めば読むほど気が滅入ってきて、結局、いまのままやりすごしていくのかなと力が抜けているのが今です。
うさぎさん、私はどうしたら幸せなのでしょうか。
【中村うさぎの回答①】
ううーん、おいそれとは答えられない深刻な問題ですねぇ。
夫のモラハラの程度にもよると思いますし、具体的な例とか書かれてあると想像もつくのですが・・・。
でもね、いちさん。
あなたの質問にお答えする前に、また別の方からのご相談を、ここにご紹介したいと思います。
何故なら、あなたにぜひ、この方の悩みを聞いて欲しいから。
「ほっとぷりん」さんのお悩みです。
【コメント登録日】
2013年11月05日 18:34
【相談者】
ほっとぷりんさん
【相談内容】
私、ここ6年ほど、鬱です。
主人に迷惑かけどおしです。
わがままで、意地悪で、ダメな妻であり、ダメな母です。
先日主人ががんと診断されました。
主人にストレスをかけどおしだった私。主人に申し訳なく思い、この2週間泣いて暮らしています。
主人にはやり遂げたい仕事があり、あとどうしても10年はかかる。子供はまだ9歳。
主人に、私はなにがしてあげられるのか、時にわからなくなります。
どのような心構えが必要でしょうか。
【中村うさぎの回答②】
ね、気がついたでしょ?
いちさんの悩みとほっとぷりんさんの悩みは、立場が正反対なんです。
いちさんはモラハラ夫の被害者の立場から、ほっとぷりんさんは鬱病で夫に迷惑をかけ続けている加害者の立場から、それぞれ苦しんでいるのです。
しかも、お二人とも、まだ幼い子どもを抱えている。
いちさんの夫は、自身のモラハラには無自覚なのかもしれませんが、自分が家族を傷つけたり、家族から憎まれたりしていることに、薄々気づいているかもしれません。
そして、そんな自分に「どうして俺は妻や子どもから愛されないんだ? どうして俺は人を傷つけずにはいられないんだ?」と、自己嫌悪に陥って悶々としているかもしれないんです。
その悩みはほっとぷりんさんとよく似ていて、ほっとぷりんさんだって、できれば夫に迷惑をかけたくない。もっとまっとうな形で夫を愛し、夫を支える妻でありたいのです。なのに、病気のために、どうしても、そうなれない。
そのうえ夫は、自分のせいで(と、ほっとぷりんさんは思っているようです)、とうとう癌になってしまった。
どうして自分は夫の重荷にしかなれないんだろう?
自分が悪いのはわかっているけど、何をどうしたらいいのか、全然わからない!
さぁ、皆さんは、この二人の悩みを読んで、どう思われるでしょう?
いちさんに対して安易に「そんな夫と別れちまいなさいよ」と言いそうになる、その言葉を、思わず呑み込んでしまいませんか?
また、ほっとぷりんさんに対しても、「病気に甘えてんじゃねーよ。夫に捨てられたくなっったら、自分を変えようと努力しろ」なーんて言いたくなるところを、「いや、待てよ。私だって、そんな簡単に自分を変えられるか?」と自問自答してしまいませんか?
悩んでいる人の特徴は、ついつい「自分だけが一方的に悩んでいる」と思いがちで、相手もまた人間として同じように悩んでいるという事実に無頓着になることなのです。
ほっとぷりんさんだって、一見、夫の悩みを慮って自責の念に苦しんでいるように見えますが、じつは夫の真意などというものに全然気づいてないのかもしれません。
いちさんの文章を、もう一度、読み返してみてください。
「モラハラ夫と一緒にいる妻の代表者なパターンですが、私には夫をあわれむ気持ちがあり、モラハラさえなければ、貧しくとも楽しく家族ですごせるのにという夫自体を否定しきれないところが今はまだ残っています。」
これですよ、ほっとぷりんさん。
これが「愛」という感情なんです。
いちさんも、ほっとぷりんさんの夫も、それぞれパートナーを愛しているんです。
そして、いちさんの夫も、ほっとぷりんさん自身も、それぞれ不器用な形で相手を愛しているんです。
それは確かに、世間一般から見れば、幸せな愛とは言えないかもしれない。
でも、互いに愛し合ってれば人間は幸せなのかと言えば、そんなことはありません。
むしろ、愛というものは相手に届かないだけに、苦しく切なくやりきれない複雑な想いなのです。
私は、いちさんに「離婚するな」と言うつもりはありません。
離婚したかったら離婚すればいい。
それは、あなたが決めることです。
また、ほっとぷりんさんにも「夫のために自分を変えろ」なんて言うつもりもありません。
人は自分を変えられない生き物だし、あなたはこれからもずっと、夫に対する自責の念に苦しみながらも、あなたであり続けるしかないのです。
ただ、どんな結論をお二人が出されるにせよ、「自分だけが被害者あるいは加害者なのだ」という思い込みから一歩離れていただきたいのです。
人間関係というものは、よほどの場合を除いて(児童虐待とかストーカーとか)、どちらかが一方的な被害者や加害者となるような、そんな単純なものではありません。
あなたも私も、すべての人が、他者に対して被害者であると同時に加害者でもあるのです。
そう思うだけで、世界が少しだけ変わって見えませんか?
今まで見えてなかったものが、うっすらと見えてくるような気がしませんか?
じつのところ、私には、いちさんが遅かれ早かれ離婚を決意するような気がするし、ほっとぷりんさんが涙ながらに癌の夫を看病する図が見えるような気がします。
ただ、今すぐにその日がやって来るとは思えないのです。
私に言えるのは「結論を急ぐな」ということだけです。
お二人ともいろいろと難題を抱えているのだから、ここで「何とかしなきゃ!」と焦って無理をする必要なんかありません。
ほんの少し視点を変えて、相手や自分のことを客観的に見つめてみる。
そうして、しばらくは、その新しく獲得した視点で世界を眺めてみながら、「自分はどうしたいのか」とじっくり考えてみる。
結論を出すのは、それからでも遅くはありません。
大切なのは「自分の心の声」を知ることなのです。
ひとりよがりな思い込みの中に閉じ込められて、自分の本当の心の声が聞こえなくなっている人が、この世にはたくさんいます。
それこそが、もっとも不幸なことなのです。
愛は必ずしも幸せをもたらさないものですが、自分の声が聞こえないことは確実に不幸をもたらします。
己を知らない者が、他者を知ることなどできません。
我々の抱えるコミュニケーション障害は、たいていここに端を発しています。
他人があなたを理解してくれないのは当然です。
だって、あなた自身が自分を理解してないのだから。
自分でも理解できないものを、どうやって他者に理解してもらえるって言うんでしょう?
他者はあなたの鏡です。
他者を理解しようと努力することによってのみ、我々は己を知る手がかりを掴むことができるのです。
いちさん、ほっとぷりんさん、あなたの目の前のパートナーを、じっと見つめてみてください。
そして、彼を通して、あなた自身を発見してください。
どんな結論を出すにしろ、それが今後のあなたの人生を変えていくことになるはずです。